2010年度 福井県経営品質賞受賞組織 知事賞
福井県済生会病院
- 代表者
- 病院長 田中 延善氏
- 所在地
- 福井県福井市和田中町舟橋7番地1
- URL
- http://www.fukui-saiseikai.com/
表彰理由
<審査総括>
福井県済生会病院(以下、貴病院と呼びます)は、病院理念である「患者さんの立場で考える」という価値観を共有し、済生の心を実践する、地域の一員として信頼される病院、地域医療・がん医療・急性期医療・予防医療をリードする病院、変革してゆく病院、ともに学び、活力溢れる病院との基本方針の下、日々の活動を展開されています。
また、3ヵ年ビジョンである「日本一の地域医療支援システムを構築する」(4疾病5事業:がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病と救急医療、災害時における医療、へきち医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療)を目指し、活動を展開されています。そして、「私たちは患者さんの立場に立って行動します。」「私たちは、信頼される医療を提供します。」「私たちは、チームワークを高め、活力溢れる職場を作ります。」の行動指針に沿って、低浸襲性で質の高いガン診療を追求し、地域に選ばれる医療を推進し、同時に予防医療をますます推進するとともに安全な医療を確立することにより、済生会ブランドを高めようとされています。
これまで、改善活動、病院機能評価、ISO9001、病院BSCの導入、等と次々と新たな経営革新のツールを導入し、これらを自らの改善ツールとしてSQM活動にまとめられ、定着が図られてきました。さらに、病院のあり方の模索から経営という視点での革新を目指し「経営品質向上プログラム」を活用して、改善・革新活動を進めようとされています。
こうした状況認識のもと、私たち審査員チームは、
1.組織間の連携やベクトルが統一され、病院で働く目的や方向性の共有がなされていること。
2.職員が働きやすい環境を整え、かつ、必要な能力(技術・スキル)向上のための教育の機会が提供されていること。
3.連携医満足度を充実させ、患者紹介率・逆紹介率が常に高い比率を示していること。
4.戦略領域(4疾病5事業:がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病と救急医療)関連設備の継続的計画的投資がなされていること
という視点をもって、申請書の理解、および、皆様とのコミュニケーションに努めてまいりました。
これらの重要成功要因を審査の基軸として、取り組みの考え方、体系化、展開度、改善・革新の程度、活動間の整合性、活動結果とその総合的帰結について成熟度の評価を実施しました。
提出された申請書をもとに日本経営品質賞アセスメント基準に基づく審査の結果、低浸襲性で質の高いガン診療を追求し、地域に選ばれる医療を推進し、予防医療をますます推進するとともに安全な医療を確立することにより、「日本一の地域医療支援システムを構築する」を目指した特色ある病院に向けての改善・革新活動は、院長のリーダーシップと絶え間ない職員との対話のもとに展開浸透が図られており、組織の目的とそれを実現する理想的な姿を組織全体で共有し、職種横断的、全病院的、全員一致のサービス活動が実践されています。その結果、高い職員満足と高い患者満足が実現されており、随所に業界のベストプラクティスといわれる結果が出ていると判断して、「A-」(500~599)と評価しました。
日本経営品質賞アセスメント基準に基づき、審査を通じて認められた「強み」は以下の通りです。
【価値観の共有・行動の実践における改善のしくみにおけるリーダーシップ】
病院の職員全員で共有する価値観を「患者さんの立場で考える」とし、職員の理解と浸透を図るために、病院長自ら医療サービス提供の現場に赴き、職員の声を吸い上げ、価値観の実践を阻む組織・部門および職種間の壁を取り除き、職員の意識の変革と連携を促進する組織風土の醸成においてすぐれたリーダーシップを発揮している。また、そのことを感じ取れる環境づくりとして、ワールド・カフェなどの場を設定し話し合える機会を提供するとともに、話し合いに必要なダイアログスキルや問題解決スキルの教育がなされており、その教育者の教育も行なわれている。さらに、日常や各問題解決段階、マネジメントレビューなどにおいて確認が行なわれ、職員アンケート結果で「自分がこの病院にとって必要な人材だという手ごたえを感じる」項目の改善がなされている。
【組織価値観であるチーム医療を実践する垣根を越えた組織風土の醸成と安全環境整備】
「チーム医療」と組織・部門間・職種間連携を促進する仕組みとして、クリニカルパスを地域競合病院に先んじて導入し、診療サービス提供プロセスの標準化、生産性と医療過誤・誤診の防止、コストの削減、職員のプロ意識の向上など垣根を越えた取り組みによる複合的な成果を生み出している。これは、病院経営において医師と一体となった医療サービス提供プロセスの革新への道を切り開いた取り組みとして高く評価される。また、その結果として、患者さんに対する4つの種類別受付窓口や4カ所のご意見箱の設置、対面できるような外来受付などの各種配慮がなされている。さらに、職員に対しても、安心して働ける場所として、反社会的勢力への対応や、無料で受けられるインフルエンザワクチン、乳がん検診、市場価格の1/10で受けられるHPVワクチンなどの整備がなされている。診療現場の組織能力を育成するために、クリニカルパスの導入と展開を促進する取り組みやGEに学んだワークアウト研修と組織横断のプロジェクトの発足、革新の中核人材となる現場リーダー(ML)の組織的な育成に取り組んでいる。組織能力向上のマネジメント・ツールとしてSQMと目標管理シートを活用し、PDCAを回す日常のマネジメントが定着している。
【地域医療における役割の認識と地域において選ばれる病院づくり】
地域医療の方向性とニーズを踏まえ、医療設備の充実と環境の整備、医療技術の先進性を維持するとともに、地域における役割を果たすため、地域連携室を置き、ニーズの把握や患者さんの紹介、逆紹介率を高める活動がなされている。地域の連携医とそれぞれの役割分担や病院の特徴と戦略・設備などを共有するため、講習会や勉強会を開放して実施すると共に、院外誌を発行し理念や方向性の理解・共有が目指されている。また、アンケートにおいて、常にニーズ・要望が把握され、改善がなされる仕組みが整備されている。さらに、地域連携室の職員が連携医を訪問すると共に、連携医のスタッフとも飲みニケーションが実施され、face to faceのコミュニケーションがとられており、また、栄養士の訪問指導協力や専門ナースの指導協力などもなされている。
【戦略の理解浸透と設備の充実とアウトプット指標の連動】
「日本一の地域医療支援システムを構築する」を目指した特色ある病院に向けて、戦略領域(4疾病5事業:がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病と救急医療)が明確に組織内外に示され、関連設備の充実が図られ、各インプット指標の結果とアウトプット指標の結果、アウトカム指標の結果が連動して向上している。上記主要プロセスの結果である職員満足の結果と患者満足の結果とプロセスの結果、がん診療での済生会ブランドを高めるプロセス指標、新規がん入院患者数、がん手術件数などが向上しており、外来延べ患者数・病床あたり入院延べ患者数の推移において、同地区での外来患者数トップであり、地域医療支援病院紹介率・逆紹介率において、一年を通じて紹介率ほぼ50%以上、逆紹介率は60%以上をキープしており目標を達成している。これらの結果が連動して、昨今の医療経済環境の中で、10%以上の無料・低額診療を実施した後でも赤字を脱却した財務状態が示されている。
一方、今回の評価を通して認められた、今後の改善に向けて考慮することが望ましい分野は以下の通りです。
【現行を見直し、プロセスの先入観を捨てた見直しのプロセスマネジメントへの変革】
貴病院は今後も独自の方向性で成長・成熟していくと思われるが、それには新たなリスクの可能性を未然に考えておくべき事柄も伴ってくる。人員構成や年齢構成では若い人材の比率がどんどん少なくなることや、病床稼働率は、現状が高いのでこれ以上高めることが困難となることが予想される。それは組織に新たな活力を供給することが停滞するとともに、このまま個人能力の向上を続けることで、人件費の高騰が想定されるなどの組織構造が変化していくことへの対応も必要となる。
現在行なっている活動から、さらなるステップアップを図るためには、一度作り上げたプロセスを、違った視点で検証を行い、プロセスを見直すことが必要になると思われる。そのためには、他業界などのベストプラクティスのプロセスベンチマーキングや指標の見直し、及び、第三者評価の活用などの検討が必要と思われる。