福井県済生会病院
(すべて受賞当時の情報です。)
- 設立
- 1941年8月
- 代表者
- 病院長 田中 延善氏
- 所在地
- 福井県福井市和田中町舟橋7番地1
- 売上高
- 16,108百万円(2012年3月末)
- 従業員数
- 1,356名(派遣、委託職員含む。2012年10月現在)
- URL
- http://www.fukui-saiseikai.com/
- 沿革・事業内容
- 「済生会」は明治44年に明治天皇から賜った「恵まれない人々のために施薬救療し、済生の道を広めるように」という済生勅語によって創立され、当院は昭和16年に恩賜財団済生会福井診療所として福井県に開設されました。済生会創立の原点である「救療済生」の精神や社会福祉法人としての使命は当院にも脈々と受け継がれているものであり、当院では「患者さんの立場で考える」を理念に掲げ、保健・医療・福祉を統合した総合医療を目指しています。また、無料・低額診療事業や生活困窮者支援事業を推進し、更生施設への無料診察の実施など社会貢献も進めています。常に現状の取り組みに甘んじることなく、患者さんの価値を考えて行ってきた数々の先駆的な取り組みは、昭和52年の日本で2番目となる全身CT導入をはじめとして、県内で1番、北陸や全国でも早い段階での取り組みが多数占めており、「地域で支える病院」を目指して、地方でも最新の医療サービスを安心して受けられる体制を整えています。
「病院の差は中で働いている職員の差である」という言葉は、当院の経営層が語っている言葉です。新しい建物や高度な医療機器はお金さえあれば真似ができますが、中で働いている職員の価値観はお金では買えません。また、職員が互いに協力し認めあえる職場とするには、組織横断的でフラットな組織づくりも不可欠です。当院では「ワークアウト」や「ワールドカフェ」の手法を取り入れ、職員同士が目的をもって対話する場を多く設けることで、理念や価値観を全職員で共有し、チーム医療を実現しています。経営の第一歩は全職員が理念を共有し、方向性を合わせること、そしてそれに共感できる職員を育てることだと考えています。 - 経営品質向上活動への取り組み
- 当院では、組織の継続的な改善と成長を続けるための戦略的な組織マネジメントシステムとして、ISO9001、BSC、シックスシグマの3つのツールを融合させた、済生会クオリティマネジメントシステム(以下SQM)という独自のシステムを2005 年より導入しています。このシステムは、理念や方向性の統一、組織横断的なチームの形成、目標に向かって創造工夫しながら問題解決をする場(環境)を提供するなど組織風土改善の目的も果たしています。
SQM導入後に課題として挙がってきたのが、職員満足度の低下でした。働く職員の高い満足がなければ患者さんに満足していただける医療サービスを提供することはできません。そこで2006 年の日本版医療MB 賞クオリティクラス(以下JHQC)の模擬審査でのフィードバックも活かしつつ、職員満足度向上のための取り組みを2007 年より重点的に実施。特に、職員の心に響くマネジメントの必要性を感じ、職員の情的資本に着目した取り組みを実施しました。職員のやりがいや内発的動機づけのために、ワーク・ライフ・バランスの整備や理念に沿った行動をとった職員を表彰する「済生会ホスピタリティー賞」の創設、リマインドDVDの作成、福利厚生をまとめた「済生会プレミアム」の充実など様々なアクションプランを実施しました。
これらの取り組みを通して職員満足度と患者満足度の向上、さらには収益増加が実現され、2011 年に第5回ワーク・ライフ・バランス大賞優秀賞、福井県経営品質賞知事賞、そしてJHQC のクオリティクラス認証でS クラス認証を受賞するなど、外部からの評価も頂いております。今後も社会福祉法人としての役割を果たし、患者さんやご家族、地域の方々や職員に期待以上の価値を提供していくために、変革しつづけてまいります。
表彰理由
福井県済生会病院は、「患者さんの立場で考える」の理念の浸透を最優先と考え、経営幹部が率先して病院内はもとよりビジネスパートナーまで浸透を図っている。医師・看護師・薬剤師・検査技師・栄養士など専門職が一体で治療計画を立てる「クリニカルパス」の高い実施率により、診療サービス標準化、生産性と医療過誤・誤診の防止、効率性、職員のプロ意識の向上など、垣根を超えた取り組みが複合成果を生み、医療サービス提供の革新を実現している。その結果、入院と外来双方の「病院満足度ポイント」も全国で高い水準を実現している。また、病院としての基幹プロセスの充実を確認するために、病院機能評価等を活用し、職員満足から患者満足が向上する組織になっているかを確認するために、日本経営品質賞を活用し、改善する仕組みを構築している。
こうした結果、満足が高い組織が出来上がり、職員意識調査結果と患者満足度外部調査結果が合致した全国トップレベルの結果となっている。職員満足から患者満足を向上するという変革の経緯、理念の浸透と働き甲斐の追求が患者満足に通じていることの再認識のしくみなど、医療機関をはじめ他業界の組織にとっても参考となり、経営品質の基本理念の具現化や組織開発に対する多くのヒントが含まれている。 以下が、今回の審査で高く評価した点である。
- 1. 理念の共有・浸透度から行動を振り返る学習の常態化
- 病院の職員全員で共有する理念を「患者さんの立場で考える」とし、職員の理解と浸透を図るために、病院長や経営幹部自ら、ことあるごとに現場に赴き、現場の事象と合わせた言葉で語り掛け、常に理念・価値観を語ることにより、職員の意識の変革と連携を促進する組織風土の醸成が図られる体制ができている。その結果、患者さんの声から医療提供プロセスの改善が常態化しており、高い患者満足度結果や外来患者数増加などにつながり、高い財務結果に連動している。また、目的をもった対話の場の設置とともに、理念から働くことの原点・働き甲斐を考えるフォロー研修など、理念・基本的価値観に立ち戻り、考え直す学習の取り組みが常態化している。
- 2. 医師と職員が一体化した医療サービス提供の革新と全国比較で高水準の「入院・外来の患者満足度」の実現
- チーム医療実現のための組織の壁をなくすことを目的に、「ワークアウト」の手法を取り入れたプロジェクトの編成、革新の中核人材となる現場リーダー育成等、診療現場の組織能力の育成を進めている。そのことで医師・看護師等の専門職が一体となって治療計画を立てる「クリニカルパス」が全国的に高い実施率につながっており、診療サービスの生産性と安全性向上等の複合成果を生み、医療サービスの革新を実現している。その結果、入院、外来双方の患者満足度も全国比較で高い水準結果となっている。
- 3. 組織マネジメントを意識した現場改善および組織風土改善ツールの展開とその学習の仕組み
- 組織の継続的改善と成長を続けるために、ISO9001、BSC、シックスシグマを融合させた独自の「済生会クオリティマネジメントシステム(SQM)」を導入し、理念や意識のベクトルの統一、組織横断的なチームの形成、創造工夫しながら問題解決をする場(環境)の提供等、組織風土改善の目的も果たしている。組織全体の展開度・実行度合いをSQMインタビューでモニタリングし、病院全体の取り組むべき課題発掘等に生かしている。その結果、組織全体の能力が向上し、変革のスピードに対応できる組織となっている。
- 4. 地域医療における連携医との良好な関係構築と選ばれる病院づくりの革新
- 地域の中核的役割を果たすために、地域連携室を置き、連携医との役割分担や病院の特徴と戦略・設備などを共有する講習会や勉強会が行われ、開放型病床も40床運営されている。また、連携医アンケートで常にニーズ・要望を把握して改善する仕組みが整備されている。さらに、地域連携室職員と連携医のface to faceのコミュニケーション、栄養士や認定看護師の指導協力等がなされている。その結果、患者さんの「紹介率」、「逆紹介率」といった地域医療支援病院で求められる水準において、達成要件を高く上回る水準を納めている。さらに、「日本一患者が幸せになる」という3カ年ビジョンの実現の観点から、地域連携医との良好な信頼関係を活かし、新たな指標として「逆紹介患者(開業医さんに返した患者)の幸せ度アンケート」を創造し、実施するとともに、地域連携医との相互学習する仕組みまで構築されている。